中学入試の朝

30年以上も前の話だが、鮮明に覚えている。入試会場で試験開始まで親子共々図書館の一室で時間まで待機させられて

いた。冬の澄んだ青空の奥に、雪を頂きに蓄えた富士山が、都内からもはっきりと確認できる情景だった。

父と共に眼鏡をかけてやはり、同じく日本一の山を指さしながら何やら話す、細面の如何にもできそうな親子が。自分は彼らと同様に、極上の風景を眺めながら不思議と気持ちが知らず知らずのうちに落ち着いた記憶がある。

闘志がみなぎってきた。というよりもとにかく、何かもうこの学校の生徒になり切った、そんな錯覚に似た感じだろうか。その時共に待機場所で印象深かった者が3人程いたが、再び入学後に彼ら全てを確認できた。そう皆合格したのだ。

父と富士を見ながら話していた彼は現在、とある大学で理工系の教授を務めている。2月の始めになるといつも思い出す入試前の光景だ。